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2007(Tue) 11/27
大学時代 回想7 研究室所属(57)
回想1「一楽木工」 ~ を見ないと意味不明なので注意してください。
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回想1…一楽木工
回想2…応援団
回想3…リリカ再来
回想4…ストーカー財前
回想5…バイク免許取得の先に
回想6…社会人の鏡
回想7…研究室所属
回想8…友情と恋愛
回想9…ホッケー女のイメチェン文化祭
回想10…阿鼻叫喚の魅力
回想11…無駄が必然に変わった日
回想12… 近日公開

牛鉄を辞めた事で…
大学には適当に遊びに行き、家に帰った後も遊ぶだけでイイという生活に突入した私。
大学では相変わらずチズエさんとは一言も口を聞けず(というよりあれ以降完全スルーされてる)、ホッケー女とはたまに目が合った時に睨み付けられる。
だが1年前とは状況は違ってる事がひとつあった。
言わゆる懐(フトコロ)の深さである。 今の私ならホッケー女やチズエなどに屈するはずがない。
どういう事かというと、今の私は1年前の「東京に出てきた右も左も知らない田舎から出てきた雑魚」とは違うのである。リョウさんとの出歩き、金澤君コンパ、そして牛鉄でのバイトなどの様々な特殊体験を経て既に東京というものに馴染んできていた。
以前のように何か新しい事がある度に「うぉぉ東京すげぇ!!」「ぬぉ!!標準語」「ぐお!何このファッション」、「ちょ…人多すぎだろ」 …とまあ日々が旅行気分。
この1年は決して「生活している」という感じはなくあくまでも「旅行に来ている」なんていう仮想世界にでも来た気分だった。それになんと言っても徳島の友達が誰1人いないので私を知ってる者がいないというのもそれに拍車をかけた気がする。
これは例えば私が徳島で「ウンコ漏らしの財前」と呼ばれていたとしても、東京に来たらそれは誰も知らないのでそう呼ばれる事はない。(例えばだぞ?例えば)
つまり新しく生まれ変わる事ができる事を意味する。
しかし逆に言うと、全ての人間関係を1から構築する必要があるので、自分の人間性や過去も踏まえて出会う人間全てに時間をかけて理解して貰う必要があるので別の意味で大変だ。過去の話をしても自分以外立証できる人もいないし、嘘くさく感じられる事も多いのであまり大きな話もできず、話題もはじめは選ぶ必要があるのである。
1年前はそういう状態だったと言える。
まずここに根付く事、自分を知って貰う事、東京のルールを知る事に必死で、どうも窮屈だったのである。
しかし… 今はどうだろうか?
今はある程度東京の町も知り、私を知る友達もたくさんいる。もうそんなに無理して増やさなくてもいい状態。性格や人柄、歴史背景も認知されてきたので話をしても笑い話やネタ話をしやすい土壌ができている。それにリョウさんのおかげで普通にしてたら行けない所や体験できない事も知っている。つまりもう東京の人と対峙しても何ら憶する事はないのである。
機は満ちた。
今なら行けるはずだ。
もう1年前の自分ではない。
今こそチズエさんのハート奪還に出陣すべきなのだ。

実は私は牛鉄のアルバイトを始めてからチズエさんの事を未だに気にしている事を周りには一言も言ってない。もう「チズエなど関係ない」とスルーしてるフリをしていた。そりゃそうである。あんなときに足掻いても無駄。むしろ「今も諦めずに財前はチズエを狙ってる」なんて学内に広まったらストーカー事件も加味されて大変な事になってしまう。
皆が忘れるのを待っていたのだ。
機が熟すのを待っていたのだ。
まさか皆、まだ私がチズエの事を諦めてなくて、これから出陣するなどとは夢にも思ってはいないだろう(笑)。
さて…
ではどうハートを奪回するかだが、これは作戦を練らなくてはならない。
昔は1人でする必要があったので「ストーカー扱い」で終了した。
だが今の私には学科内にちゃんと仲間がいるのだ。彼らに協力して貰えば間違えてもストーカーにはならない。早速いつものように下宿に遊びに来ていた奴らにこの事を告げる。
この時下宿に遊びに来ていたのはタカシとワコウ、そして最近知り合ったノリ君。

財前「…と。こういうわけだ。協力してくれ」
タカシ「はぁ?」
ノリ「…」
ワコウ「おまえまだ諦めてなかったんかw」
タカシ「悪いことは言わないからもうやめといた方がええぞ」
ワコウ「ホンマ軽い男なんやら一途な男なんやらわからん奴っちゃなあ」
ノリ「…」
タカシ「すまんけど協力は無理や。チズエの件に関わったらワイらまで変な問題に巻き込まれる」
財前「ええ!?」
ワコウ「ワイも無理や。今やワイは学科内で「仏のワコウ」と呼ばれてるんやぞ? 評判上々なんや。ストーカー絡みの事件には関わりたぁない」
財前「ちょっと待ってよ。おまえらは俺がストーカーじゃないこと知ってるじゃないか」
ワコウ「リスクがありすぎるわ。だいたいチズエとかもうどうでもエエやんけ。やめといたら?」
タカシ「ワイもそこがわからんわ。そんなムキになるような女か?」
ワコウ「まあレベル的には中の上の下ってとこやな」

ノリ「…」
財前「いやいや…農大で一番かわいいだろ! あの子は」
ワコウ「それはない」
タカシ「だいたいちょっと不振な男見ただけでストーカーなんて騒ぐか?普通。自意識過剰すぎやろ」
ワコウ「まあ財前をストーカーと断定してネタにした所は評価できるけどな」
タカシ「うむ。 ネタとしてはウケた部類に入る」
ノリ「…」
財前「おまえらな! 今日話し合う目的は悪口を言うためじゃないんだぞ」
ワコウ「だいたいおまえはコケにされたんやぞ?その相手にまた告白とかアホすぎやろ」
財前「嫌よ嫌よも好きのうちという言葉もある」
ワコウ「アカン。こいつドラマの見過ぎや」
そんなバカ話が繰り広げられている中… その日は妙に大人しかったノリが発した一言でその場全員が凍り付くこととなる。
今でも忘れもしない。ノリの一言
ノリ「ちょっといいかな」
財前「ん?」
タカシ「なんやノリ」
ノリ「聞いてると財前がチズエちゃんにアタックするって事みたいだけど、そうなの?」
財前「そうだよ」
ノリ「え?マジで? だってチズエちゃんて彼氏いるよ?」
財前「ぇ…」
タカシ「!?」
ワコウ「!?」
財前「工エエェェ(´゚д゚`)ェェエエ工」
財前「ちょっと待てノリ!! そりゃマジか? 初耳だぞ」
ノリ「いやだってそいつ俺のダチ(友達)だし」
財前「なんだと! おまえのダチ?」
ノリ「俺財前ストーカーの件は噂で知ってたけど、それギャグだと聞いてたからさ。ということはチズエちゃんの事好きだったってのもギャグだと思ってたけど…そこはマジなのね…」
財前「どうも噂に尾ひれがついたりして変な方向に言ってるな… それよりノリ! 誰だ。そいつは。おまえの友達なんだろ?名前は?」
ノリ「ああ。オサムだよ」
財前「オサム… 農大か?それとも他大学か?」
ノリ「農大だよ。しかも俺らと同じ学科」
財前「ちくしょう! なんだそいつ! どうやってあの内気な子に近づいたんだ」
ノリ「スキーサークルで出会ってそのままらしいね」
財前「何!?スキーサークルだと!? チズエさんスキーサークルだったのか!! ノリ!!なんでそれを早く言ってくれなかったんだ。俺も入ったのに!!!」
ノリ「いや…そんなこと言われてもさ… 財前と知り合ったの最近だし…」
ワコウ「おいタカシ。ウィニングイレブンしてようぜ。もう話は終わりだろ」
タカシ「OK」

財前「くそう…。でもそいつ格好いいんだろうな…。チズエさんとつきあうくらいだから…」
ノリ「う~ん。あんまり格好よくないけどね… モテるタイプでもないし」
財前「おまえは見る目がないんだよ! チズエさんがつきあう男が不細工なわけないだろう」
ノリ「そうかなぁ。まあチズエちゃんがモテルのはわかるんだけども」
財前「そうだろ?そうだろ? で? そのオサムって野郎はどういう奴だ。詳しく教えろ」
ノリ「え…。どういう奴って言われても…」
財前「どこに住んでるんだ」
ノリ「大学近くの下宿」
財前「ちくしょう。野郎!! 自分の部屋でチズエさんとズッコンバッコンやり放題ってわけか!!」
ノリ「ちょ…」
財前「背は?背は高いのか?」
ノリ「低いね」
財前「何!? じゃあ頭か?頭がいいのか?」
ノリ「別に普通じゃない?真面目だけど」
財前「何?頭も普通? じゃあ面白いって事か。そいつ。話術がありやがるんだな?」
ノリ「う~ん。別に大して面白くないね」
財前「何だと! …。 おいおいノリ。どうなってんだ。そいつ特徴らしきものがないじゃないか」
ノリ「そりゃそうさ。だって普通だもんw」
財前「じゃあ特技は何だ。なんか特技があるだろそいつ」
ノリ「ないね」
財前「ない!? おいおい嘘つくなコラ。なんでそんな野郎とチズエさんがつきあえるんだよ!!」
ノリ「そんなこと僕に言われても…」
財前「なんか特徴があるだろ。思い出してくれ。 …ん? まさかそいつ親が金持ちか?」
ノリ「…違うと思うけどw」
財前「じゃあ高級車持ってるとか?」
ノリ「持ってないね。チャリ通学だよ。あいつ」
財前「…」
ノリ「…」
財前「…」
ノリ「ど…どうしたの?」
財前「って事は… 夜の方が凄いのかな…」
ノリ「それもないと思うよw」
ワコウ「アホ」
なんなんだコイツは。
まったくオサムって奴は掴めない野郎だぜ…。「普通」って事しか特徴出ないじゃないか…
私はその他様々な事をノリに聞くが有効な情報は聞けず… 聞けど聞けど何もとりとめない「普通」が返って来るのみ…。
たまりかねたのかゲームに夢中のワコウとタカシが口を挟む。
ワコウ「おい財前。ただその二人のフィーリングが合っただけやろ。おまえチズエ買いかぶりすぎやねん」
タカシ「スキーゲレンデは不細工な奴でも格好良く見えたりするし。そんなところやろ。」
財前「なるほど… スキー場で惑わしやがったのか」
ノリ「あとは…花屋でバイトしてるよ」
財前「何!? 花屋だと?」
ノリ「ごめん。これも普通でしょ…」
財前「バカ野郎ノリ!! それは普通じゃない。男が花屋でバイトとか明らかにナルシスと野郎だ。」
ノリ「それは酷いよ」
財前「駄目だ… 闘志が…萎えた」
ノリ「?」
財前「なんか…花屋でバイトしてる男の姿想像したらさ…。 闘志が萎えてきた…」
ノリ「えぇ!?」
財前「なんか…ファイトが沸かないというか… なんというか… そいつ「なよってる男」じゃないの?」
ノリ「まあどちらかというと普段はなよなよしてポォーとしてるね」
それを横耳で聞いたワコウとタカシが何故か吹く。
ワコウ「ぶっwwww なよなよしてポォーとしてるってそれチズエもやんけww お似合いカップルやなw」
タカシ「そりゃ駄目だ財前。おまえとタイプが正反対w 出る幕ないわww」
財前「…」
ノリ「あんま悪く言うなよな~。僕はオサムと友達なんだから」
財前「わかってるって。 よし。ノリ。そいつと明日話をさせてくれ」
ノリ「ぇ…?」
財前「話がしたい」
ノリ「駄目駄目。変な事言う気でしょ?困るよそれは」
財前「いやいや。そんな事はしないよ」
ノリ「だいたい財前とオサムは性格的に合わないよ」
財前「そうでもないと思うよ?」
ノリ「とにかくそれは駄目だよ。僕一応チズエちゃんとも知り合いだから… 財前を紹介はキツイ」
財前「…」
ノリの言い分はこうだ。私をオサムさんに紹介することにより、チズエさんが嫌がるんじゃ無かろうか?。そしてそれがきっかけでオサムさんと私が万が一、万が一仲の良い友達になってしまった場合…チズエさんがそのことを気にしてノリと衝突し、二人の仲がおかしくなってしまうんじゃなかろうかと
もちろん推測に過ぎないが…。
オサムさんと私の接触はデメリットしかないとノリは言いたいのだ。
だが私からするとノリの考えは浅はか。まず第一に私はオサムと仲良くする気はさらさら無い上、そんなもめ事を起こすような事を今更私がするわけがない。この部分はよく考えて欲しかった。
私はただ確認したいだけなのだ。チズエさんがつきあった男というものを。
これは譲れない部分だった。2年近く脳裏から消えなかった女を射止めた男だ。
ノリが言うような「ごく普通の男」なわけがないじゃないか。
…
そして最終的にこの日の内にノリを説得。明日オサムさんを紹介して貰う運びとなった。なんてことはない。同じ学科なのだから同じ教室で同じ授業を受けるわけである。授業後にちょっと紹介して貰うだけ。ちょっと…。
この日は夜遅くまでタカシとワコウが酒を飲み、私とノリは話し込んでいたので結局私の下宿に皆が止ることになった。
…

日付が変わった。ガサガサうるさい音で起きると…
ノリか…
やはりノリは真面目だ。既に大学に行く準備が整えようとガサガサと忙しそう。タカシとワコウは淫らな姿で熟睡中。起こして「大学に行くぞ」と言っても無駄だろう。恐らく起ない。元々こいつらは気が向いたときのみに大学に行くタイプだから(笑)。
まあノリに昨日の話を聞かなければ私も同じように寝てただろうから人の事は言えないが…。
私は数分で身支度し、ノリと共に大学に出発。そして教室に入り、ノリと隣同士の席に座った。さあ。今日来てるんだろうか?奴は…オサムは…。
財前「ノリ。どいつだ」
ノリ「ほら。あそこの短髪の奴」
財前「ん? え~と あれか? あのシマシマの服の…」
ノリ「そうだよ。あれがオサム」
財前「…」
ちょ…
恐るべき事態である。なんとオサムという男…。
激しく普通すぎる件について!!

なんなんだコイツ。限りなく一般人に近い。
ノリも表現に困るわけだ。私としてもなんとも言いようがない。なんの特徴もなく、雰囲気というかそういうもの自体がない… まるで空気のようだ…。
わたしはこの瞬間話さずしてすべてを理解した。人間第一印象を見れば大抵の事は当たる。(根が悪人とかそういう特殊な人以外は)
つまりこれはこういう事だ。チズエさんが彼とつきあって好き合ってるというのは事実だろう。それもこの男の雰囲気を見た場合、告白できるようなタイプには見えない…。
これどうやってつきあう所までもっていったんだ?
チズエさんからアプローチした可能性すらあるぞ。
でも決め手が何かくらいはわかる。
ズバリ「やさしさ」と「普通さ」だ。彼はそれが武器なんだろう。
まず「普通さ」だが、これは男友達としては何の魅力もないものの、女性からすると意外と重要な要素かもしれない。この分類の人間はまず集団の中で目立たないし、激しい行動もしない。ということであまり浮気の心配がないのだ。
この場合、つきあっていてもあまり問題が起こることもなく、口論もさほど起きにくい。女性からすると腰を降ろして自分のペースでゆっくりとつきあえるのだろう。
チズエさんはどちらかというと「のほほんタイプ」だけに… 確かにタイプ的には合う。
次は「やさしさ」だ。問題のオサムさんだが、やさしいタイプでまず間違いがない。自分よりも他人を気づかうタイプなのでやさしいというより「気を遣う」から結果的にやさしいと感じられるタイプだろう。
そして我慢強く、清潔で、悪いこともしなさそうだ…。
この瞬間私は素直に敗北を認めた。
こううタイプをチズエさんが好むとしたら私では絶対無理だ。このタイプの人間と戦える気がしない(笑)。絶対に真似は不可能だし私の場合、ネタを作って何ぼ、何か面白い事して何ぼとかいう体質が染みついており、今更変えることなどできようもないのだ。
ノリに謝ろう…。
財前「ノリ…」
ノリ「ん?」
財前「いいやもう。充分わかったから俺帰るわ」
ノリ「へ… 一応話しておけば?せっかくだし」
財前「いや~ けど何を話していいのやらわからないし、話してもスカされそうだからいいや」
ノリ「昨日聞きたい事一杯あるような事言ってたじゃんw」
財前「…」
結局今度は逆にノリに説得される運びとなり、オサムさんを紹介して貰うことに(笑)。いやホントもういいんだけど…。花屋のバイトだろ?花の話とか別に進んでしたかないんだが…。
そんな事思いながらノリについて行ってオサムさんの席へ。好都合だったのは今日チズエさんの姿が見えないことだが…
ノリ「よぉオサム」
オサム「やぁ。ノリ君」
ノリ「この前はありがとうね」
オサム「こちらこそ」
ノリ「最近どう?」
オサム「え?普通だよ」
ノリ「そうかw」
オサム「ノリは?」
ノリ「普通かな」
オサム「そうかw」
な…なんなんだこの会話は… どうやって入れと… これじゃ微笑む事すらできないんだが…。 私が黙っていたので空気を察知してかさらにノリが続ける。
ノリ「彼女は今日来てないの?」
オサム「うん」
ノリ「ふぅ~ん」
オサム「…」
ノリ「…」
オサム「じゃあまたね」
ノリ「!? あ。ちょっと待って」
オサム「え?」
ノリ「あのさ。コイツ。財前て言うんだ。君と話したかったって」
ちょ… 何その下手な紹介。もっと自然にやってくれよ!!
オサム「え?」
財前「ハ…ハロー…」
オサム「何か?」
財前「ぇ? え…え~と。 」
おいおい。ノリ…ほったらかしかよ。話題があるわけないだろ!!とりあえず…
財前「花屋でバイトしてるんだってね?」
オサム「うん」
財前「実は俺花好きでね。最近どういう花が売れ筋なのかなぁと思って」(大嘘)
オサム「花好きなの?」
財前「もちろんさ」
オサム「う~ん。ごめん。花屋でバイトしてるけどたまたま採用されたから行ってるだけで…花の事はよくわからないんだ」
財前「な…何!?」
オサム「でも男で花が好きなんて珍しいね」
財前「…」
オサム「僕のバイトしてる花屋に詳しい人いるから良ければ今度来てみるといいよ」
ちょ… 全然興味ないんだが…
財前「あ…そうなの…。ち…近くなのかな…その花屋」
オサム「下北沢さ」
財前「はは。下北沢か…」
…
行くわけないだろう…
そんなとりとめないどうでもいい会話をちょっとした後にオサムは去って行った。聞きたくもない花屋の住所も受け取ってしまったが… まあ… 聞いた以上は一回は行っておかないと駄目だろうか…。まあ下北沢には良く行くから洒落で行ってやってもいいが。
財前「ノリ…」
ノリ「ん?」
財前「もういいや。ありがとう」
ノリ「?」
知っての通りこのタイプの男は毒がないので女性との付き合いは長く持ちやすい。2年~3年は持つ。だって別れる理由が「マンネリ」以外にないんだから。
激しい系の男ならつけいる隙もあったが、オサムさんの場合は付けいる隙がない。
そういうファイトが沸かないというかなんというか…。
そんな中、何か…鋭い視線をヒシヒシと感じるのでちょっと確認してみると…。
ホッケー女だった。

財前「まずい… おいノリ。帰るぞ」
ノリ「ん?何がまずいの?」
財前「ホッケーが見てるんだよ。あいつにいろいろ詮索されると面倒なんだ」
ノリ「ホッケー?ホッケーって何さ」
財前「ほら。あのホッケー部に入ってる女だよ」
ノリ「ちょ… 財前。あの娘と知り合い?」
財前「まあ…知り合いって程でもないんだけど…」
ノリ「あの娘かわいいよね」
…
…
財前「な…何…?」
ノリ「もし良かったら紹介してよ」
財前「ちょ… おま… 駄目だ駄目だ」
ノリ「なんでさ。僕はオサムを紹介してやったじゃないか」
財前「いや…これとそれとは話が違ってだな。 まあ帰ったら詳しく話すよ…」
ノリ「?」
…その後下宿に帰ってノリには「ストーカー事件」の一部始終の事情を説明。これにて彼もわかってくれた。だが… どうやらノリはホッケー女を学校でちょくちょく見ている内にちょっと気になる存在になってるらしい。好きというわけではなく、今惚れつつある状態…という事だろう。
しかし大学のような環境ではきっかけもない上、接点がホッケー部に入るしかないという状況ではどうしようもない(笑)。
まあこの協力者に関しては他を当たって貰う事になった。
そして…これが引き金となり…今回の表題の「研究室所属」へと繋がっていき…そこで…。
それは後述。
大学では大学3年から全員が「研究室」に所属しなければならない。 なぜなら東京農業大学農学科は「卒業論文」が農業実習と結合されており、研究室で農作物の実習をしながら成分を分析し、そのデータを元に卒業論文を書かなければ卒業ができないのである。
3年生の間は4年生の補佐をする身。そして4年生で自分の実験を始める。
この研究室は同じ農学科に複数あり、例えば花卉学研究室、蔬菜学研究室、果菜学研究室、人間科学研究室、社会農業研究室など多岐に及ぶ。
つまり1~2年時は250名が一緒になって授業や行動をしていたが、3年からは本格的にこの中で分離され、約30名ずつくらいの団体が8つ、9つ出来るということである。
感覚的には中学~高校の「クラス分け」と想像して貰うとしっくりくると思う。
それで、3年生で研究室は一体どこに所属するのか。それを決めるのが2年生の後期に当たる今なのである。ちなみに見学なんてものはなく、ほとんどの学生が名前だけで研究室を決める。米がしたいとか、花がしたいとか、果物がしたいとか農業の未来を思考したいとか、目的さえあればどこの研究室に所属するかは自ずと決まるからだ。
一番人気があったのは花を学ぶ花卉学研究室。
そんな中私は蔬菜学研究室(野菜学)を選んだ。
当然だ。私はこの当時、将来日本に食糧危機が来るのを予想し東京農大に入った。つまり食料の栽培方法やノウハウ、ホントの所を学ぶためだ。
花など贅沢な時代だからこそ受け入れられているものであり食料的にはなんの役にもたたない。なぜこの研究室が一番人気なのか理解不能。果樹は…まあ許せるが、野菜と果物。どちらが食糧難の時に重要かといわれればこれは当然野菜となるのは明白。
それに果物はなかなかつぶしが効かない。木が美味しい実をつけるまで成熟するには数年~数十年かかる場合があり、簡単には変更できない。 野菜の場合は単年で栽培が終わる者がほとんどなので、時代に合わせて栽培する品種を変更できる。
食糧難が近い将来降り注いだとして…
手堅いのは間違いなく野菜なのだ。

もし食料難が来たとき。一番困るのは都会の人間だ。農地自体がないので食べるものも当然無くなることとなる。それに競争率も激しい。
こうなると田舎の野菜はほぼ全量都会へと出荷されることとなるはずだ。なぜなら田舎の農家はそんな野菜に頼らなくても、自分の菜園や近所の農家との協力で食物は工面できるからだ。結論を言えば田舎の農家は自分の食う作物さえ植えてれば生きていけることになるが、農地が金のなる木になるのだから放っておく手はない。
都会人のために農薬漬けの野菜を作り出荷するのである。
もちろん都会の金持ちが我先にと値段をつり上げて買い占めるだろう。
それはこちらにとっても美味しい。
ちなみに農薬漬けなのは農地面積辺りの生産量を上げるためである。まあこう書くと嫌がられるかも知れないがこれが現実。今は食糧難ではないが、実際の農業の実態はこうなのだ。
有機農業で食っていけるのは… 本当に一部の農家でしかないので…
理想では食っていけない。
…
ただ、私の予想は見事に外れ未だに日本は食糧難にはなっていない。さすがにこれでは如何に野菜農家だろうと食っていけるはずもない。単価が安すぎるのだ。
そういうわけで私はサラリーマンとして会社に就職している身なのです(笑)。

さて…
タカシは実家の関係で果菜学研究室、ワコウは楽な所に行くということで農業生産研究室に希望を出した。後、ノリは私と同じ蔬菜学を選んだようだ。
その後発表があったが
蔬菜学研究室に希望を出したのは約25名。人気の花卉学研究室以外はみんなそんな人数だったので不人気というわけでもなかったようだがひとつだけ…ひとつだけ問題があった。
蔬菜学研究室のリストに私とノリと友達数名の名前が入ってるのは安心した。
これから一緒に25人が一丸となってやっていくからだ。
しかし…だ。 そのリストの中に… 気になる名前があったのだ…
なぜだ… そういうタイプじゃないぞあいつは…
なんで… なんで
ホッケーが蔬菜学研究室のリストに入っているんだ!!

なんてめんどい状況になってしまったんだ。ホッケーにいきなり研究室内でいろいろ嫌がらせされたら私は終わりである。25名しかいないんだ。
ちょっと…居場所が…。
まあノリと友達が数名いるから小さくまとまれない事もないけど…。
これはピンチである。だがあの事件のホントの事を説明しようにも今更説明してもどうしようもないし、何よりアイツは感情的な上に頭が固い。
「証拠が存在しない話」が通じるタイプとはとても思えない。
う~む… 幸先不安。orz
チズエさんがいなかったのがせめてもの救いかもしれない。
…
そんな悩める私を尻目にノリは
ノリ「やったぁ。ホッケーさん同じ研究室だ!!」
なんてバカな事を言って喜んでる。いやはや…どこがどういいんだか。
先生の説明によると研究室の割り振りが決まった後、実際にその研究室に皆で見学に行く…という事だった。
今のうちに役職?みたいなのを決めるらしい。要は学年のリーダー決めたり掃除当番決めたり、書記決めたり、担当の先輩を決めたりといった感じ。農作業もあるらしい。

早速言われたとおりに蔬菜学研究室に向かう私とノリだったが、先ほどの興奮はナリを潜め…何かノリが不安そうだ。実はこのノリ…バイクつながりで友達になった。姿もごっついし、顔も恐い方に分類されるんだけど、見た目とは裏腹に気がやさしく、気が小さい。
実は友達も学科内では私とオサム、そして…数人しかいない。まあ…私とノリが友達になったきっかけも私が無理矢理下宿に連れ込んで仲間に引き入れたようなものなので…
ノリからではない…。オサムさんと友達だったってのもなんとなくわかる気もする。
ノリ「なんかさぁ。この25人…。友達になれそうな奴がいないんだけど…。僕…結局最後まで財前としか無理そう…友達」
財前「まあ適当にやってれば勝手に友達になるって」
ノリ「そうかなぁ…」
財前「25人しかいないんだから自然とそうなる。心配するなよ」
ノリ「う~ん…」
財前「それよりホッケーと一緒で良かったんだろ? おまえ…うまくやりゃあつきあえるかもなw」
ノリ「やめてよw」
財前「ていうかな。今気づいたけどおまえがホッケーとつきあうと俺も助かる事になる」
ノリ「なんで?」
財前「彼氏の言うことなら信用するだろ。おまえが彼氏になって俺を弁解してくれればいい」
ノリ「あ。そっか」
財前クックック…。そうすりゃイチコロよ」
ノリ「ストーカーじゃないって言えばいいんでしょ?」
財前「おまえ単純すぎるぞ…。そんな簡単な話じゃこれは終わらないんだよ…。よし。その弁解のセリフは俺が考える。もしホッケーとつきあえても絶対勝手に言うなよ。俺の考えたセリフをそのまま言うんだ」
ノリ「なんでそう裏工作するかなぁ。いつも」
財前「二人をくっつけるために協力するからさ。裏で…。それくらいいいじゃん」
ノリ「まあ…僕1人じゃ無理そうだし」
そんな話をしている内に研究室に25名が全員揃ったことで4年生の先輩が前に立ち、色々と説明を始めた。
先輩が言ったのはこうだ。
・おまいらまずは
①幹事(研究室のまとめ役。一番偉い)
②副幹事(幹事補佐と他研究室とのコミュニケーション、交流担当)
③掃除当番(研究室掃除)
④書記(決まり事を文書に残す)
⑤機材保持(器具、機材の洗浄)
⑥作業手伝い班(農作業のお手伝い)
の役を決めろ
・その後どの先輩につくか決めろ(月に一回くらい研究室に来て先輩の卒論を手伝え)
・喜べおまいら。歓迎コンパをやるお。
・3年から忙しくなる。単位あんま取れてない奴はいまのうちに打開しる
…
もちろんこの中で一番難航したのは始めの役職決めだ。希望を取るとほぼ全員が書記と掃除係に立候補したので…そういうのは後回しにして幹事と副幹事からまず決めることとなった。
まず幹事だが、これは研究室の顔だ。私たちは3年生になったら研究室所属になるわけだが、この同学年を纏める役目となる。言わば学級院長のようなもの。
だが残念ながらここは農業大学。そんな真面目な奴はいやしない。
この場合女性ならなんとかなりそうだが、纏めるのが無理そうなのでやはり男からと言うことになった。そして… さすが農業系大学と言うべきか、私たちの中で一番ガタイ(体つき、背など)がいい奴が幹事をすることになった。
白羽の矢が立ったのはカネダという男。いわゆる巨人…である。
カネダもそう決まると
カネダ「まあ…いいけどよ」
と渋々了承した。身長186なので私より2㎝も背が高い。まあ私はある意味コイツがいて助かったと言える…。コイツに逆うような無謀な奴はいないだろうから適任だ。
次に副幹事だ。これは幹事とは違い、まとめ役ではない。名目上は幹事の補佐となっているが主な仕事は頻繁にある研究室のイベントに参加する役。
といってもこれは同研究室内のイベントではなく、他の研究室のイベントに参加するのだ。これをきっかけにして蔬菜学研究室と他の研究室との交流を深めるのが目的。ちなみに儀式として他の研究室のイベントに行ったときは1リットルくらいのどでかいグラスで酒を一気飲みほして盛り上げなければならないらしい…。 この辺はさすが農大。
結構こういうイベントは良くあるので、様々な研究室に裸一丸で突っ込む事となる。そういう意味では幹事より副幹事の方がめんどいと言われてる。
副幹事を決めるのに幹事以上に難航した。だいたい誰もたった1人で他研究室のイベントなんかに参加したくない(笑)。ビール1リットル一気飲みを続けて8つもある研究室に挨拶全部回るとか無理だろ。それも1回や2回じゃないみたいだし…。
しかしこういう姿を見てカネダがキレだした。
カネダ「なんだよおまえら。俺なんてガタイがデカイってだけで幹事になったのによ。パット決めろよ。」
一同「…」
カネダ「じゃあ副幹事は俺が決める。いいか?」
一同「!?」
おお。これはいい。 カネダが決めるんなら私になる可能性は0%。だって私はカネダなど知らないし彼とは友達でもない。奴が決めるなら友達を選ぶに決まってる。
みんなもそう思ったらしく…過半数以上がそれに賛成。
そして
カネダ「じゃあ決めるよ。副幹事は…」
…
「財前君で」

財前「ぇ?」
カネダ「だから」
カネダ「副幹事は財前君」

財前「ちょ… 工エエェェ(´゚д゚`)ェェエエ工?」
カネダ「なんかそういう交流とか得意そうだから」
財前「いやいや。そんな事ない;;」
カネダ「見た感じそうだけど?」
財前「見た目かよw だいたい君は俺の事知らないのになぜ…」
カネダ「噂はよく耳にしてたから知ってると言えば知ってる」
財前「ああ… またその噂か…それはだから」
くそう… あのストーカーの噂はここまで…
そしてなんとホッケー女が口を挟んできた。
ホッケー女「いい機会じゃない。」
財前「ん?」
ホッケー女「副幹事でがんばって悔い改めたら?」
財前「な…なんだと!! だからそれはだな…」
ホッケー女「相変わらず往生際が悪いね」
財前「ぐ…このアマがぁ!!」
しかし… 大声を出してしまったことで周りの視線が…突き刺さる。特に女性陣が痛い視線を…。駄目だ。こんなとこで怒ったらストーカーという嘘をホントにみんな思いこんでしまって…
そういうキャラを自らが演じてしまう。
第一ホッケー女は人気がある。女性は皆彼女の味方。こらえろ…こらえるんだ…財前。
これは奴の策略だ。
ここは…紳士的な態度でイメージUPを図るべきだ。
財前「ふぅ…。 …。 え~とカネダ君もさ。俺そういう噂のような人間じゃないって。ちょっと話し合おう」
カネダ「は?」
財前「確か副幹事を決めるんだったね?」
カネダ「今更何言ってるんだよw やっぱなんか面白くなりそうだから財前君」
財前「…」
カネダ「君は援団だったんだろ?学ラン着て他研究室行ったらウケルかもなw ガハハ」
ホッケー女「ぷっw」
ノリ「ぶw」
財前「貴様ら…」
ああぁぁぁぁぁぁ!! もう!!
まるで嘘のような話。あのチズエ事件が… あの噂が…
もう1年以上経ってるのに、またまたこんな形で私を苦しめるなんて!!
しつこすぎるぞ。
いったいいつまで私につきまとうつもりだ!チズエ。彼氏ができてもまだ恨みが晴れてないとでも言うのか!だからあれは誤解だと。
しかもなんだあのカネダの言った言葉に対する研究室の皆の反応。まるでみんなが知ってる既成事実のような感じ。
そこまで噂が広まっていたとは!!
くそう!! あのホッケー野郎。 あいつの性だ!!
既に自己紹介として「僕の名前知っとるけ?」なんて言う意味すらなく、自己紹介する必要すらない。
悪い意味で…
…orz
これが引き金となってか…私は3年生になり研究室所属になっても全然気が抜けない日々を送る事となる。
だいたい今日は研究室見学。まだ研究室は始まってもいないのに開始1時間でネタ野郎と化してしまったのだ… だいたい今後の想像はつくはず。 。
コンナ事がアッテイイノダロウカ
次回 友情と恋愛

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